[月虹舎]

(イメージ)
いちばん悪い魔法
第04場
森島永年
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http://www.infonet.co.jp/apt/March/Aki/WorstMagic/04.html
場面は雨宮家に戻る。自分たちの部屋で、荷造りをしている三人。
恵美 やっぱり行かなくちゃならないよね。
友里 友里は行くよ。
恵美 よし、孝を連れていこう。こういうのって、男の子がいないと盛り上がりにかけるもんね。第一さ、食物担いでいく役割の人間、絶対に必要だよ。
双葉 お姉ちゃん。よーく考えてみてよ。今、さらわれているのは誰。
恵美 だれって、青木裕子に決まっているじゃないの。
双葉 でしょう、でしょう。だとしたらよ、悲劇のヒロイン、プリンスの役は青木裕子で、孝くんは王子さま。私たちの役割は、王子さまを助けるお供の家来、まで役が下がっちゃうかもしれないんだよ。その他大勢になっちゃうんだよ。そんなの、絶対に損だよ。下手をすると、西遊記の馬の役だよ。馬。
友里 友里、お姫さまの役をやってもいいな。ねえ、ねえ、孝くんってかっこいい。
双葉 お姫さまは、青木裕子。今頃鞭でばちばちたたかれたり、逆さ磔にされているかもしれないんだよ。
友里 鞭はいやだよね。
双葉 逆さ磔だって嫌でしょ。頭に血がのぼっちゃうよ。それでなくたって友里はのぼせ性なんだから。お姉ちゃん、孝くんを青木裕子に取られちゃってもいいの。
恵美 (黙々と荷物を詰めていたが)別に平気よ。
双葉 だって、彼なんでしょ。
恵美 孝くんは、やさしいし、かっこいいし、勉強できるし、可愛いし、スポーツは万能だし、いい線いってると思うよ。はっきり言って、欠点がないんだもの。
双葉 私の友達でも、ファンがいっぱいいるんだよ。
恵美 でもさ、欠点のないやつって、おもしろくないでしょ。私ってさ、理想が高いんだと思うんだよ。もっと、人間としての厚みがある男のほうが魅力を感じるのよ。孝くんって、子供でしょ。
双葉 お姉ちゃん、私怒るよ。私たちは、まだ、みんな子供なの。
友里 ねえ、こんな話ししてると、夜が明けちゃうよ。行くなら、行くで早く行こうよ。
恵美 たった今気が付いたんだけど、問題が、ひとつだけあるのよ。
双葉 何よ、いまさら。お腹が痛くなったとか、恐くなったなんて言わせないからね。
恵美 馬鹿ね、そんなことじゃないわよ。もっと、もっと、大切なことよ。...行き方が分からないのよ。どこにあるのよ、そのデビルゾーンというのは、だいたい、あのいちばん悪い魔法で行った鏡の国にだって、行くことができないんだから。
双葉 そんなことだと思ったわよ。...・どうすんのよ、この荷物。
恵美 もう一回呪文を言ってみたらどうかな。
双葉 だって、あの時呪文を言っても鏡の国には辿り着けなかったんだよ。
おばあちゃん こんばんわ。みんなもう寝てしまったのかい。
双葉 眠れるわけないでしょう。
おばあちゃん どうしょうねえ。青木裕子ちゃんのこと...。
恵美 助けにいこうと思ったんだけど、どうやってデビルゾーンへ辿り着いたらいいのか分からないのよ。
おばあちゃん 馬鹿言っちゃ駄目だよ。悪魔相手にあんたたち子供が一体何ができるというの。そんなこと考えちゃ駄目だよ。ああ...私があんたたちにいちばん悪い魔法なんて使わせなければこんなことにはならなかったのにね。
恵美 そうなんだ。おばあちゃんが、あの魔法を使って私たちを鏡の国へ行かせたんだ。
双葉 だったら、おばあちゃんに手伝ってもらえば、もう一度、あそこへ行けるんじゃないの。
おばあちゃん それがねえ、私も試してみたんだけれど、なぜかうまくいかないんだよ。なぜなんだか分からないんだけどね。
有里 あちゃー。しっかりしてよ、おばあちゃん。
双葉 おばあちゃん、もうひとつ聞いてもいい。双葉、おばあちゃんならきっと知っていると思うの。あの、悪魔の言っていた封印て、何のことなの。
おばあちゃん それは、おばあちゃんもよく知らないんだけれど、おばあちゃんのひいおばあちゃんが、とにかく偉い魔女で、悪魔のために困っていた人たちを救うために、悪魔を封印して、どこか遠くの世界に追放したという話は聞いているんだよ。
恵美 あの悪魔は、そのおばあちゃんのひいおばあちゃんと、おばあちゃんとを勘違いしているというわけね。双葉 でもさ、おばあちゃん、うちって、由緒正しき意地悪な魔女の家系なんでしょ。どうして、悪魔を退治しちゃうなんて、やたら偉そうな魔女がいるのよ。
おばあちゃん 実は、...・本当は、家は、すごーい魔女の家系なんじゃが...私のお母さんというのが怠け者の魔女でな、つらい修練の必要な魔法というのがどうしても耐えられず、ちまちまとした、意地悪な魔法だけを覚えてしまったという事なんだわ。私は、おばあさんに一生懸命教わったんだけれど、おばあさんも早く死んでしまったので、とうとう家には、主に、意地悪な魔法だけが伝えられているというわけなのさ。
双葉 それじゃあ、家って、本当は、すごーいりっぱな魔女の家系なんじゃないの。
恵美 それで、封印については、何も分からないのね。 友里 大丈夫だよ。だって、この本に書いてあるよ。封印の解き方。
恵美 友里、その本は。
友里 おばあちゃんの部屋からもってきちゃった。
双葉 だってその本には何も書いてなかったじゃないの。友里 そうじゃないんだよ。この本はね、こんな魔法があったらいいなって、願うと、その魔法のやり方が見えてくる本なんだよ。
双葉 だって、この本の裏のほうにそう書いてあるもの。恵美 だったら、どうしてさっきは何にも書いてなかったのよ。
友里 私は、それはおばあちゃんのせいだと思う。違う?おばあちゃん。おばあちゃんが、私たちを試したんだよね。
おばあちゃん それは、そうなんだが、...・。本当に、封印の解き方なんて魔法がのっているのかい。
双葉 ほら、おばあちゃんだって、信用していないじゃないか。見せてみなさいよ、その本。本当に書いてあるかどうかみてやるから。(友里の手から本を奪う)
恵美 書いてある?
双葉 あるわ。嘘じゃないわ。
友里 鏡の国に、行く魔法も書いてあるはずよ。
おばあちゃん でも駄目だよ、あんたたち子供が、悪魔と戦うなんて。
友里 別に、戦うわけじゃないんだよ。ちょっと行って、封印を解いて、青木裕子さんを返してもらって、すぐ帰ってくるんだから。
おばあちゃん 悪魔というのは、嘘つきなんだよ。封印を解いたからといって、青木裕子さんをすんなり返してくれるはずがないのさ。
友里 そんなことばっかり言ってたら、恐がってばかりいたら、何にも始まらないんだよ。
恵美 そうよ
♪もしも、この一歩を踏み出さなかったら
きっと私は、後悔するだろう
見えもしない影に怯えているのなら
いつまでも子供のまま
きっと、私のなかで、何かが変わっていくんだわ
大人になろうとしているのかもしれない
友里 友里は、まだ子供のままでいいけどね。
おかあさん 仕方ないわね。行ってもいいわよ。
恵美 おかあさん。
双葉 本当。
おかあさん ただし、...。
双葉 やっぱりただしがつくんだ。
おかあさん 今日は遅いから、明日の朝にしなさい。それから、その、魔法の本。コピーしときましょう。後から、お母さんも、お父さんと応援にいきますから。
恵美 こういうのって、コピーでも効力があるのかしら。
おかあさん お父さんも、明日急ぎの仕事がなければ、会社を休んでもらって、一緒に行ってもらってもいいんだけど、あんたたちも聞いてたとおり早出だっていうからね。なるべく早く帰ってきてもらって、応援にいくからね。
おばあちゃん 私も、一緒に行ったほうがいいんじゃないかね。この子たちと。
恵美 お婆ちゃんは、お父さんたちと来てくれたほうがいいよ。私たちだけで、なんとかしてみるから。
おかあさん それからね。
友里 まだ何かあるの。
おかあさん 荷物のなかに、歯ブラシ入れておくからね。困ったことが起きたら、この歯ブラシで歯を磨くのよ。
双葉 どういうことよ。
おかあさん 別に、困ったことが起きなければ、いいんだから。さあ、明日は、青木裕子ちゃんを助けにいくんだから、ちゃんと寝ておかなくちゃ駄目だからね。
娘達 はーい。
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