いろんな本に、"映画の原理は
残像に基づいている"と書いてあります。でも、ほんとうにそれでいいんでしょうか。きちんとした本に書いてあるからといってうのみに
しないで、
自分の頭でちょっと考えてみましょう。
残像は、
見えていたものがいなくなっても、ほんの短い間だけ、その像が見え続けるという現象ですが、このような現象には少なくとも2種類あることが知られています。
その一つは、明るいものを見ていたり、同じものを長い間見ていたりする時に起こる現象で、見えていたものがいなくなったあとに、そのものとは
反対の色の像が、
数〜数十秒ぐらいにわたって見え続けるという現象です。もう一つは、ほんの
1/6〜1/5秒ぐらいの短い間だけ像が見え続ける現象で、こちらについては色は
もとのままで変わりません(資料
[残像は二つある])。
この二つのうち、像の残り方から考えると、初めの方の(つまりほんとうの)残像の方はどうも映画の仕組みとは関係なさそうですから、ここでは、あとの方の残像(だから正確には
持続)だけについて説明します。
実は、残像は、むしろビデオの表示にとってはかえって
じゃまになります。残像がはたらけばはたらくほど、前のフレームの残像がより長い時間にわたってあとのフレームの表示と重なって見えるようになるからです(▽図)。
残像も、部分的にはビデオの表示に役立っています。
ビデオ(もちろんTVや映画も含めます)を再生するシステムを実現しようとする場合に最も難しい部分は、フレームを次々に交替していくための機構です。フレームを交替している間、交替しているのを隠しておかないと、余分な視覚が生じて運動を感じにくくなるからです。
たとえば、映画館の映写機では、フレームが交替する間は回転するマスクでレンズを閉じるようになっています。つまり、映画は、フレームを投影する光と、それが交替している間の暗闇との繰り返しです。しかし、実際には、映画館で映画を見ていて、フレームとフレームとの間が点滅しているようには見えません。これは、残像によって前のフレームがまだ見えているうちに、次のフレームが表示されるからです。つまり、残像のおかげで、視覚がとぎれないですんでいるのです。
フレームの間隔の時間は、フレームの交替を機械式で行なっている現在のフィルム映写機でさえ、かなりの長さ(約1/30秒)です。もっと昔のゾーエトロープ、キネトスコープではこれがさらに長くなり、無視できない長さになっていました。このようなシステムにとっては、確かに残像はなくてはならない効果だったのかもしれません。
現在では、ビデオを表示するのには
CRTやLCDなどのモニタが使われていますが、これらのうち、
CRTでは、フレームの間隔を隠すために残像がやはり必要になります。
CRTでは、電子ビームが蛍光体の塗ってあるガラス面を光らせながらスキャンしていきます。けれども、蛍光体の光は、電子ビームが通り過ぎるとすぐに消えてしまい、スキャンが一周するまで(1/30秒)は保ちません(保ったら保ったで絵が前のと重なって二重になってしまいます)。それなのに、TVを見ていてスクリーンが点滅しているように見えないのは、消えていく光を残像が補っているからです。
最近は、
CRTに代わってLCD(液晶)モニタが使われるようになってきました。LCDは、
CRTと違って、交替の間も直前のフレームを持続して表示しておくことが可能です。したがって、LCDでは残像は必要ではありません。
ともかく、
ビデオのフレームから運動を感じ取ることができるしくみがヒトの体のどこかに備わっていることは確かです。このはたらきは
仮現運動とよばれています。
仮現運動がどのようにして起こるのかはまだ明らかではありません。たぶん脳のはたらきが大きいのだろうと考えられています。
残像は運動を感じさせる作用には関係ありません。