パネル資料
創造性の育成 - メディア学の教育の現場から

作品の構造の階層







 制作するべき作品の構成によって課題の難度は変わります。特に、複数の層を積み上げるような構造の作品を制作するのは、規模が小さくても意外と困難な課題になることがあります。

事例
 [コンピュータ演習]では、キャリアアニメーションを題材とした単元として、初め、[カウントダウン]という課題を設定していました。これは、フィルムの頭につけておいて編集や上映に使う5秒程度のカウントダウンを装飾的に制作するというものでした。
 しかし、[カウントダウン]は課題としては失敗でした。ほとんどの学習者はカウントダウンに特有の効果をもったアニメーションを作ることができませんでした。実際に完成したものは大きく二つのタイプに分けることができます。その一つのタイプは、ただの5秒間のアニメーションになってしまったものであり、そもそもカウントダウンの本来の機能さえ実現されていませんでした。もう一つのタイプは、1秒のアニメーションをオムニバスにつなげたものであり、全体としての構成が配慮されない作品になっていました。
 この二つのタイプから、報告者は[カウントダウン]が意外に難しい課題だったことに気づきました。カウントダウンは時間との関係において2層の構造をもっています。上の層は言わばベースの層で、あと5秒の時点から0秒に向かってテンションを高めていきます。下の層は長さが1秒のモジュールで、それぞれは(多少はベースに基づいて変化しますが)よく似ていて、これが繰り返されることによって反復の印象を観客に与えます。二つのタイプは、まさにこのそれぞれの構造の片方ずつに対応していました。
 報告者は、一度は修正的な対策をしてみました。つまり、カウントダウンの構造のおもしろさをよく説明してから制作をさせてみようとしました。しかしそれでも、下の層(1秒のモジュール)がうまく作れないために何度も全体の構成を立て直さなければならなくなることが多く、想定した時間で作品を完成できない学習者がいました。また、構造が複雑であることは制約が多いということでもあるので、自分が立てた構想と折り合いがつかなくてなかなか構想が決められない学習者もいました。
 結局、報告者は、[カウントダウン]の下の層の構造(1秒分の運動)だけをモチーフとする[ファンシークロック]を新しい課題として導入しました。[カウントダウン]は経験のあるより高学年の科目で実施してみましたが、そちらでは効果がありました。







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