論文
芸術系大学における基礎専門教育としてのハイパーカード制作
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4. 報告−[コンピュータ演習]におけるハイパテキスト実習
4 . 0 . [コンピュータ演習]の概要
[コンピュータ演習]は、京都造形医術大学において共通基礎演習として開講されている三つの科目のうちの一つ(ほかに基礎造形演習・伝統芸術演習がある)である。その主たる目的は、専門科目の実習の前提になる情報システムを利用する能力を身につけること、およびさまざまな形態の情報の処理を体験することによって、芸術の制作・鑑賞・批評のための情報リテラシを獲得することにある。
[コンピュータ演習]は芸術学科では選択(通常半数が履修している)、美術科およびデザイン科では必修である。毎週2講時ずつの通年で履修する。基礎教育としての位置づけから、入学初年次に履修するように指導している。
年間を通じて二つの共通課題と四つの選択課題を実習する。これらの課題はいずれも決められた形態(描画、建築デザインなど)によって決められたモチーフ(自分の表情、乗換駅など)を表現する芸術作品を制作するという形式で与えられ、学生はその制作を通じて各自の情報リテラシを向上する。各課題に対しては、8講時ずつの作業時間が与えられる。
実習は 3 6名前後のクラスを単位として行なわれる。各学生は教具として1台ずつコンピュータを割り当てられる。このコンピュータは M a c i n t o s h I I c xをベースに、課題のタイプに応じて必要なハードウェア/ソフトウェアを追加搭載したシステムである。
[コンピュータ演習]の目的と方法に関する詳しい議論、およびハイパテキスト実習以外の単元の詳細については文献 0 1・ 0 2を参照されたい。
4 . 1 . 要求分析
京都造形芸術大学は芸術系の単科大学である。したがって、情報処理教育を受ける学生は芸術に対する興味が強く、多くの場合はその表現/鑑賞能力を十分に備えていると考えていい。しかし、情報処理に対する経験は十分ではないし、コンピュータなどの情報機器に対する興味は低い。それどころかこれらの機器に対してネガティブな反応を示す学生もいる(ビデオデッキやポータブルステレオを使わない学生もいる)。
学生が[コンピュータ演習]で実習に使用する設備は、学生が将来の他の授業や各自の作品あるいはレポートの制作に使用する設備でもあるので、そうした作業で使用する場合の前提とはならないまでも矛盾がないように演習のつごうに依存した特殊な操作は極力取り除かなければならない。
4 . 2 . 実習の形態
ハイパテキストの制作は共通課題の一つとして全員が実習する。
ハイパテキストの制作/再生には [ H y p e r C a r d]を用いる。
[コンピュータ演習]におけるハイパテキスト実習は[ストリートアドベンチャ]の表題のもとに行なわれる。この課題は2講時ずつ4週にわたって行なう。最終目標は、特定の区域の道を歩行するシミュレーションが可能なハイパテキストを制作することである。
学生には毎週、その週で行なう作業だけを説明し、最後の段階で作業の全体像が発見できるように進めていく。
キャンパスの付近の地図を見て、実習室のある校舎から約 5 0 0m離れた場所にある、互いに隣接した3か所の十字路/T字路/曲り角/行き止まりを選ぶ。実際にその各地点に出かけて行き、その地点に出入りするすべての道路についてその方向の情景をスケッチする。通常は全部で 1 0点前後のスケッチを描いてくる必要がある。
る。
1週目
取材してきたスケッチを各カードに描き写す。
す。
2週目
カードとカードとの間にリンク(カードから別のカードを呼び出す関係)を張る。このリンクはボタン(カードのしかるべき領域)にカーソルを置いてマウスを打つと発動させることができる。ボタンの配置や表示を工夫することによって、向きを変えたり前進したりする動作をボタンを打つ操作に帰着できる。この作業を通じて、以前の取材の不備に気がついた場合は、必要に応じて再取材する。
3週目
まず、互いの作品を交換してその中を散歩してみる。作品の中の散歩によって現地がどのようになっているか想像して地図を描く。また、作品のデザインに不備があれば問題点をレポートする。作者はプレーヤが描いた地図とレポートを検討し、不備な点を手直して作品を完成する。
る。
4 . 3 . 履歴その他
[コンピュータ演習]におけるハイパテキスト実習は 9 1年度から実施しているが、当初は現在とは課題の設定が異なっていて、自宅(または下宿)と大学との間の通学路とその周辺を題材にするよう指導していた。しかし、この設定ではいくつか問題が生じたために現在の設定に変更した。
すでに述べたように、取材がやり直せないことが最も問題であった (→3 . 3 .)。さらに、バスや電車などの交通機関を利用する学生が多いため、途中の駅で降りるようにでもしない限り、プレーヤが自由に行動できる作品を作ることが困難であった。
また、バスや電車に乗っていると各地点で情景を見ることができる方向が限られてしまい、たとえ分岐があったとしても、それを情景の中に直接示して自然に移動させることができない点も問題であった。
また、現在はスケッチをウィンドーに描き写すのを手で行っているが、将来はここにハンディスキャナを導入することを検討している。
(注釈)
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